彼女の受賞作品「Borders of Nothingness—On the Mend」は、数年前に日本でのレジデンスに参加し制作された作品のイメージで構成されている。これらの作品は、私たちには判読できない一定の距離におかれた人物や場所をとおして、不在と別離の感覚を呼び起こす。後にランシンクはこれらのイメージを再構築し、コラージュや日本の金継ぎに習った新しい作品を作り出した。ランシンクは選び抜いたイメージに金箔を手作業で貼り、一度は断片のようになってしまっていた作品を独自の表現として一新させた。 私たちは、ランシンクの経験と創造性をコロタイプを用いてより明瞭に表現する機会に恵まれたことを非常に光栄に感じている。毎年、二週間という限られた滞在制作の期間中、作家と職人は互いに新しい表現方法を学び、アイディアを交換し、挑戦し、共有し合ってきた。このような人々の関係や繋がりを独自の作品表現の要とするランシンクは、便利堂で働く私たちにとって深く共鳴するものであり、彼女は今年の最優秀賞にとてもふさわしいと考えている。

– 株式会社便利堂 代表取締役 鈴木 巧

Borders of Nothingness – On the Mend

全ての流れ行く無限の中に、人々は私たちの人生の中に立ち現れては去っていく。ある時はとても細やかな変化で、その始まりと終わりを意識することはないが、別の時にはとても明らかに、彼らはバタンと音を立てて入ってきて、またバタンとたちさってしまう。

「Borders of Nothingness – On the Mend（無の境界線 – 快方に向かって）」は、写真家マーガレット・ランシンクが、彼女の大人になった娘から一切連絡を絶たれたという曖昧な状況から制作を始めたシリーズである。写真における風景や女性のヌードは、消えかけの他者の存在を浮上させ亡霊のように質問を投げかける。これはあなたがいってしまった瞬間のこと? 　時が流れ、彼女は娘と再び連絡をとるようになる。そして空白の時を修復できないかと模索する。作品を再び目の前に広げ、再考し、快方に向かう感情的努力を作品に反映させた。金継ぎで陶器を修理する様を日本で見たランシンクは、彼女のイメージを組み合わせ、切り取り、一度は壊れていたものだからこそ、より強く、美しく結びつくという可能性に希望を寄せ、彼女たちの無言の時を修復しようと、イメージの上に金箔を載せた。

【略歴】

マーガレット・ランシンクは、アムステルダムのPhotoAcademyで写真を学び、アート写真の分野で活動している。2016年、パリのLeMasterklassで学び、さらに2019年から2020年にはSmedsby Atelier Parisに参加している。Hariban Award 2019の最優秀賞を受賞し、その後シドニーのHead On 2020、ロッテルダムのHaute Photographie 2020にも選出されている。彼女の作品はこれまで欧州、カナダ、日本、アメリカ等で発表されている。2016年に、リトアニアのカウナスギャラリーのアーティスト・イン・レジデ ンスに参加したのち、2017年には日本のシロオニスタジオに滞在し、そこで「Kindness of One」を制作している。ランシンクはFemmesPHOTOgraphes Parisのメンバーであり、iwi_collectiveの創設者でもある。